洞窟の出口を出た途端、大悲と多智はまず、目を開けていられないほどの刺すような強い光に襲われた。
二人は思わず目を細めながら、数歩だけよろよろと前へ進んだが、すぐに、自分たちが眩い白光のただ中に立ち尽くしていることに気づいた。上下左右の区別もつかず、方向というものがまったく分からない。
そのとき、多智がかすれた声で言った。
「大悲……息が、うまくできない……。」
「身体中の力が抜けてしまって、立っていられない。」
「眠りたいわけじゃないのに、全身がぐにゃぐにゃで……。」
「呼吸が止まったみたいだ。気も血も、全身をめぐっていない感じがする……。」
言い終わらぬうちに、多智はその場に崩れ落ちるように座り込み、両脚を組んで胡坐(あぐら)をかいた。
大悲もまた、胸の奥が詰まるような、呼吸のしづらさを感じ始めていた。
だが同時に、彼女は自分の胸の中にある摩尼宝珠が、高速で回転し始めているのに気づいた。
宝珠はさまざまな色の光を放ち、その光には不思議な生命力と躍動が満ちていた。
周囲に満ちる白光は、やがて一つの大きなエネルギーの流れへと姿を変え、渦を巻きながら、大悲の頭頂と胸元から摩尼珠のほうへと吸い込まれていった。
やがて大悲は、自分の呼吸が完全に止まっているのをはっきりと感じた。
にもかかわらず、身体はぽかぽかと温かく、羽のように軽く、肉体という重さや輪郭をまったく感じなくなっていた。
そのとき、大悲の脳内にある天目神鏡もまた、活発に動き出した。
神鏡は何度も何度もまばゆい光を放ち、点滅するように外界の白い光を鏡の中へ吸い込んでいく。
鏡から返ってくる光は、氷のように冷たく澄みきっており、その冷たさが、頭の中をきりりと引き締めた。
大悲は、身体を動かそうとしてみた。
しかし、自分の身に「定身の術」がかけられているかのように、足一本指一本動かすことができない。
ただ、冷静に起こっていることを見つめているしかなかった。
「このまま、光に閉じ込められてしまうわけにはいかない……。」
そう思おうとするのに、不思議なことに、「焦る」という念すら起こってこない。
彼女は、心臓の鼓動も、大脳の動きも、すべてが消えてしまったかのように感じた。
どこにも「思い」が生まれる場所が見つからない。
全身が、何もないのに満ちているような、空(くう)でありながら不思議な広がりをもつ幻境の中に、ただ浮かんでいるだけだった。
摩尼珠と天目神鏡は、その光に触れるほどに、ますます興奮していくようだった。
二つの宝は、絶え間なくこの白光からエネルギーを補充し、その力を限界まで高めているかのようだった。
摩尼珠の回転はさらに速度を増していった。
やがて、目に見えないほどの速さまで達したかと思うと――
突然、摩尼宝珠はピタリと動きを止めた。
その瞬間、大悲は、この世界のすべてが一斉に静止したかのような感覚に包まれた。
流れていた時間も、渦巻いていた光も、すべてがどこかへ消え去り、ただ一つ、「空(くう)に澄み渡る大悲」という存在だけが、在るのか無いのかも分からない場所に、ひっそりと在り続けていた。
そこには、呼吸もなければ、思考もない。
身体というものも存在せず、自分はただ一筋の静かな光となって、喜びに満ちたまま、どこまでも透明な空間にとどまっていた。
そのときだった。
「ドォン――!」
天地が砕けるような轟音とともに、摩尼宝珠が万丈の光を爆発的に放った。
その光は、周囲に満ちていた刺すような白光よりも、何千万倍も強烈だった。
光が閃いた次の瞬間、大悲の意識はその光の中に呑み込まれ、すべてが白一色に溶けていった……。